居酒屋の“婆” 「この子を嫁にもらってください」
某月某日、某市で某氏と居酒屋へ。
おっと、満席だ。
「すみません。でも、姉妹店にお席がとれると思います」
と言うやいなや、若い女子店員はケータイを取り出し速攻で確認する。
「お客さん、ちょうど空いていました! どうされます?」
テキパキした対応に感心する我ら2人。彼女の笑顔に
「はい、行きます」
「この先のコンビニを曲がったところに同じ店があります」
店の外に出て、丁寧に教えてくれた。
「貴女の接客対応いいねぇ。グーよ」とほめてあげた。
そしたらどこから現れたか、初老のご婦人が私の眼前に。
「でしょう。いい子なのよ。お客さん、お嫁にもらってくれないかしら」
「えっ!?」
どうやら店のオーナーらしい。
「残念やったなぁ。もう少し早く出会っていたらねー(笑)」と姉妹店へ向った。
姉妹店のカウンターに空き席が2つ。ここも大賑わいだ。
生ビールと刺身でやり出したら、背中をトントン。
「やっぱ来てくれたんだ」
さっきのご婦人が私の横にいた。
「ご主人さんですか」
「うん、そんなもの。私は婆(ババ)、若い子たちがみんながんばってくれているの」
と言うと、棚かららっきょう瓶をとりだした。
「お食べ」
見事ならっきょうで、漬け方も最高。焼酎に切り替えた相方はポリポリ旨そうに口に運んでいる。
「いゃー魚もサラダもらっきょうもうまかねぇー」
婆は踵をかえして冷蔵庫へ向った。婆はほめても笑わない。
「苦労して店を繁盛させて姉妹店もつくったんだね」と、婆のことを肴にして飲んでいると、いつの間にか私の横にまたにゅうと。
手に鮎のうるかの瓶を持っている。まだ開封していない。
「ほれ、こちらのお客さんに出してあげて」と店員に指示した。
クリーム色の実に丁寧な作りのうるかだ。
卵がぷちぷち、鮎が食べた苔の香りまでただようかの一品に、酒がすすむ、すすむ。
隣の客が羨ましそうな顔をしてこちらをみている。
婆がつぶやいた。「あの子はもううちに来て15年になるの。とても働きやさん」
「へぇー」
先ほどのテキパキした姿からは20代半ばにしか見えなかった。
「嫁にもらってくれない?」
旅客とのたわいのない話なのだが、それが何とも心地いいのだ。婆は従業員を子や孫のように大切にしている。大手の居酒屋チェーンでは決して感じることのない雰囲気にとても心が安らいだ。
テキパキ彼女を引き合いにしたのは、一生懸命働く若い従業員への、婆の賛辞だったのかもしれない。
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